イーソーコ総合研究所 × CANUCH Inc.
企業のらしさが見える、
倉庫ライクオフィス。
Text by e-SOHKO Research Institute Inc., CANUCH Inc.
Photo by Hideki Makiguchi, Ryouhei Jingu
Design by NSSG Inc.
INDEX
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昨今、リノベーションやコンバージョンという言葉が不動産市場を賑わせています。建物にちょっと手を加えて新たな魅力を足していくという手法は、すでに住宅では一般的になりつつあります。自分が自分でいられるための空間、本来、最も落ち着く空間である住宅において自分らしさを表現することは、ごく自然なこととして受け入れられているようです。
では働くための空間はどうでしょうか。「自分らしく働きたい」という人にとって、規格化されたオフィス空間は物足りなく感じるに違いありません。そこで実践したいのが、「非日常=固定概念にとらわれない場所で働く」という考え方です。
オフィスとして構築され提供されている空間ではなく、もっと自分らしい空間をモノにし、自分らしい設えを施したうえでオフィスとして使用する。既存の規格化オフィス空間で働くという考え方を捨てることで、自分らしく働くためのアウトラインはもっと創造的になります。
非日常という意味では、“倉庫で働くこと”はひじょうに魅力的な選択肢です。倉庫はもともと、オフィスでも居住用でも店舗用でもありません。そこには、本来の用途では無いがゆえに新たな用途を考えられるという自由度の高さがあります。高い天井は見る者に良い意味での違和感を抱かせ、事務所ビルには無い開放的な空間を実現するためのインスピレーションを刺激します。装飾要素のないプリミティブ内装は見る者に完成されていない感じを与え、想像力を掻き立てます。その「自由度」と「完成していない感じ」はクリエイティビティを触発し、思考をめぐらせ、その場所で何が出来るか想像せざるをえなくなります。これが、倉庫の持つ一次的な魅力です。
そしてオフィスとしてリノベーションされた倉庫は、他の何物にも再現できない独特の空気感が漂います。広大な空間が抱かせる一種の寂寥感か、歴史を紡いできたがゆえの安心感か、あるいは倉庫として使用されてきたというまさに非日常性によるものか。そしてその空気感は、その場所を使う人の感覚に作用するはずです。
その空気感と似た感覚は、築年数を経た事務所ビルをスケルトン化したオフィスも持っています。スケルトンと倉庫。そこは「非日常」に求められるもう一つの回答がある場所だと思っています。
TBWA HAKUHODO QUANTUM office
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“自分らしく働く”という考え方が広まってきた背景には、近年、働く場所としてのオフィス環境が大きく変化したことが挙げられます。業務時間にとらわれないビジネス機会の創出、オートメーション化による生産性の向上、意思疎通の強化のための組織のフラット化、雇用・就労形態の多様化、コミュニケーションの円滑化、そしてワークライフバランスの適正化などにより、働き方も大きく変わってきています。
特に、コミュニケーションツールの躍進的な進化によるデバイスの多様化、ネットワークの高速化、クラウドサービスの進展は仕事場という場所からの解放を促進し、どこでも仕事場に出来る状況が揃ってきています。
会社や組織の形が変わってきている一方で、フリーランスなどに向けたコワ−キングオフィスが増えてきています。働き方が変われば働く場所の選び方も変わる。その考え方は、あらゆる層に広がっています。もはや働き方を選ぶということは、働く場所を選ぶということと同義といって過言ではないでしょう。最適な環境を自ら選び、タスクに対し最適な状態で業務をすすめる。これが今日におけるワーカーの思考です。
Shared office & Coworking space "iioffice"
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ツールの進化によるコミュニケーションの向上は業務を「自分の仕事=自分ごと」としてとらえ、自ら最適化を計る事を可能にしました。たとえ組織の中におけるタスクの一つに過ぎなくても、「自分ごと」として考え、問題を探し、改善していく思考に変わっているのです。私たちはこの思考が、組織内に埋もれた問題の可視化による改善や、新しい市場を開拓するアイディアになりえる要因になると考えています。
すでに多くの企業が、こうした思考ができるクリエイティブな人材の採用や、思考の意識改革ができる環境の構築に向けて動いています。私たちが考えるクリエイティブな環境とは、「非日常=固定概念にとらわれない思考」になれる空間です。情報の共有や同じマインドの人たちが集まるミートアップ、既存のオフィス環境にとどまらない動き方は、新たなアイディアを生んでいます。
こうした状況下におけるクリエイティブな発想を可能にするオフィス空間とは、どのような空間なのでしょうか。逆説的ですが、ワーカーが働く場所から解放されるとともに「人が集まって働く場所」の価値が増してきています。人と人との対話から得られるインスピレーションは、情報通信だけでは生み出すことができません。情報の可視化と共有を可能にするインターフェイス、コミュニケーションが発生するリフレッシュエリア、わざと交錯した動線。あるいはミーティングルームにギミックを仕掛けたり、ワーカーの気分をリフレッシュさせる空間を設けたり。クリエイティブな思考を実現できる企業になれるか否か、その答えは、人と人とが相対する機会を設けたオフィス環境にあります。
Neilo Inc.
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クリエイティブな思考のために必要な「非日常」とは、従来型のオフィス環境を「日常」と捉えた場合の相対的な考え方です。求められるのは、パネル天井や白い壁紙やグレーのタイルカーペットやスチールデスクではありません。それは、仕事という意識を排除してインフォーマルな友人との会話ができる環境。具体的には、家のリビングのようなくつろいだ環境であり、喫茶店のような読書や休憩に適した環境です。「いわば」プライペートにおける生活環境の要素を仕事場に落とし込み、それによって仕事環境における「非日常」を創り出すのです。こうしたスキームを取り入れたオフィス空間は、ワーカーの心理状態をリフレッシュすることに効果があるといわれています。
端的にいえば、求められているのは「仕事場と生活環境の垣根がないような環境」、いわば「居住性が高いオフィス」です。こうしたオフィスに入居する企業は従業員募集への応募が多く、定着率の面でも有利とされています。こうした環境を持つベンチャー企業の多くがオフィスの雰囲気をネットで公開しているのも、理由があるのです。このようなクリエイティブなオフィスを持っていることは、一種のステータスとなっているといっていいでしょう。しかしこうしたオフィス空間を求める声は大きくなっているのにもかかわらず、実際に選ぶことができるのは従来型の事務所仕様の物件ばかりです。各企業が「事務所らしくない」環境を構築するため、室内を改装しているのが現状です。
Nentrys,Inc.
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空間デザインを専門とするCanuch Inc.(カヌチ)。しかしその仕事は、表層的なデザインを施すことではありません。空間の目的や意図に基づき、その空間があるべき本質を体感できる。そんな空間づくりを念頭に、デザインを創り出している集団です。
オフィスデザインへの考え方
組織の見える化やイノベーション、生産効率を上げる為の仕掛け作り・・・。CANUCHのオフィスデザインは、ブランドイメージや企業体質、業務内容など、クライアントからのヒアリングから導き出された答えの具現化です。それは潜在的なものも含め、企業の求める機能を備えたオフィス空間です。なぜこの形がいいのか、なぜそうでなければならないのか。クライアントとのセッションで一つ一つをひもときながら、本当に必要な表現、機能を対話の中から導き出し構築し、最適なオフィス空間を生み出していきます。
オフィスデザインの実務
私たちのデザイン業務は、機能的なレイアウト、人材確保やブランディングまで意識したビジュアルコントロール、ファニチャーの選定や居住性など、オフィス構築に関わるあらゆる要素を様々な角度から検証し、デザインしていきます。クライアントとなる企業とは、そのライフサイクルにおける現在のステージを共有した上で、中長期的なワークスタイルの構築をサポート。ハードの提供だけではなく、運用の提案も広く行っています。
レイアウトを作成する際は“エリアごとの空気感”の構築を心がけ、目に見える部分だけではない、意識下に訴える空間を創り出す。私たちの真髄はそこにあります。
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クリエイティブかつ自分らしく働ける場を構築するための、素材としての倉庫。建物ごとにその表情が異なるのも魅力のひとつです。特に昨今手頃になりつつある高築年数の中小倉庫はBTS(Build-to-Suit/ビルド-トゥ-スーツ=用途に合わせた専用設計)が基本。同じ間取りのフロアの積層からなる規格化されたオフィスビルと違い、同じ建物、同じ間取りのフロアは二つとしてありません。ダイナミックな外観、解放的な内部空間、建築当時の工法や建材、そして倉庫として使われるなかで建物に刻まれた数々の痕跡。倉庫と出会い、倉庫としての機能やその名残りを目にするうち、新たな感性が刺激されていきます。倉庫といういわば特定の用途のためだけのみに設計され使われてきた建物をどう活かし、どう使うか。自分の感性を、どう表現するか。それこそ倉庫をリノベーションする醍醐味です。
しかし実際の倉庫を目にできる機会は多くありません。オフィスへのリノベーションを前提とした賃貸倉庫の検索に、従来型のオフィスを探すために構築されたプラットフォームを当てはめるのは、現実的ではないのです。より多くの倉庫を目にするためには、一定以上の労力を情報収集に充てる必要があるでしょう。倉庫との出会いは一期一会です。
実際の倉庫のサイズ感が現状に合わないのであれば、倉庫空間を再現するという選択肢もあります。従来型のオフィスフロアをスケルトン化して、倉庫の開放的な空間、プリミティブな雰囲気を。あるいはファニチャーやレイアウトで、倉庫の機能的な作業環境を再現する。見慣れたオフィスビルの内部に広がる疑似倉庫空間というギャップは、ワークスペースにおける非日常性の構築というモチーフを視覚的にも感覚的にも表現できます。個性を謳いながら画一的になりがちだったリノベーション手法の新たな方法論としても注目されています。
倉庫といっても一つ一つ表情は異なります。より多くの倉庫空間を体験し、働き方とマッチする空間と出会うことが重要です。例えば・・・大空間を生かしたダイナミックなオフィス。解放的な空間と、力強い建築物の構造を感じることができます。大空間を使い倒す事は倉庫リノベーションの醍醐と言えます。例えば・・・秘密基地のようなオフィス。倉庫以外の物件でも、既存の表情を活かすことで、倉庫っぽい空間を作り出すことができます。まずは、手頃な空間で理想のオフィスを創ることも可能です。
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従来型のオフィス空間の有り方を考えるうえでは、どのエリアにオフィスがあるか、駅からどのくらいか、メーンとなる取引先とのアクセスはどうかといった概念、いわゆる“必然的な立地”という要素が、物件選びにおけるハードルのひとつとなっていました。 しかしICTが発達した現在、PCと通信機器さえあればどこでも働くことができるようになりました。こうした状況下における働く場所の価値とは、人と人との直接対話から生まれる創造性であり、情報通信のみに頼ることのないリアルなコミュニティの構築です。こうした概念で選べば、賃料という要素もその考え方が大きく変わってきます。オフィスに要する資金はもはやコストではなく、そこから新しいを生み出すことのできるベネフィットとして捉えるべきでしょう。 立地という呪縛から解放されたことで、オフィス選びはもっと自由になりました。ビジネスという必然性を離れ、好きな街で働きたい、感性を刺激する街で働きたい、あるいはこの街に貢献したいという観点で選ぶことが可能になったのです。どこでも働けるという概念の浸透は、街の構造やキャラクター、機能も含めた有り方も変える可能性を持っています。